神代植物公園で自由研究|ベゴニアの葉を観察しよう
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雨に濡れた葉がしっとりと光を返し、深大寺に隣接する神代植物公園(深大寺植物園と呼ばれることもあります)では、初夏になるとあじさい(紫陽花)が見頃を迎えます。この記事では、園内のあじさい展で実際に出会った19品種を、園のラベルにそって一つずつご紹介します。どの品種がいつごろ見頃になるかは年や天候によって前後しますが、雨上がりのしっとりとした時間帯は、どの花もとりわけ美しく映ります。

あじさいというと、青やピンクの大きな手まり型を思い浮かべる方が多いかもしれません。けれど展示場に足を踏み入れると、そのイメージはやさしく裏切られます。手のひらにのるほど小ぶりな花、星をちりばめたような八重咲き、白い縁にそっと紅をさしたような花――ひとくちに「あじさい」と呼んできた花が、こんなにも多彩な表情を持っていたのかと、あらためて驚かされます。

鉢植えで一鉢ずつ仕立てられた花には、それぞれ名前の書かれたラベルが添えられています。その名前を一つひとつ読みながら歩くだけでも、あじさいの世界の奥行きが伝わってきます。この記事では、展示で出会った品種を系統ごとにご紹介しながら、神代植物公園ならではの小さな発見についてもお話ししていきます。
展示を眺めていて、ふと気づいたことがありました。多くのラベルが「ヤマアジサイ・肥後絞り」「ヤマアジサイ・藍姫」というように、頭に「ヤマアジサイ・」と付いているのに、いくつかの鉢だけは「アジサイ・天竜千鳥」「アジサイ・白斑入りガクアジサイ」と、頭の言葉が違っているのです。同じ展示場に並んでいながら、なぜ呼び名の付け方が変わるのか。気になって、園の方にうかがってみました。
すると、これは神代植物公園独自の表記のルールなのだと教えていただきました。基本となるヤマアジサイの品種には「ヤマアジサイ・」を冠する。けれど、植物としてはガクアジサイの系統に入るものや、野生のヤマアジサイには分類されない古くからの園芸品種については、頭を「アジサイ・」として区別している――そういう約束ごとなのだそうです。
つまりラベルの最初の数文字に、その花がどんな素性を持つのかが、さりげなく示されているわけです。何気なく通り過ぎてしまいそうな小さな表記ですが、来園者が植物の系統を正しく理解できるようにという、園の細やかな心づかいが込められているのだと知って、展示を見る目が少し変わりました。この記事の後半で、その「アジサイ・」が頭につく三品種についても、あらためてご紹介します。
個々の品種を見ていく前に、ヤマアジサイという花について少しだけ触れておきます。ヤマアジサイは、主に太平洋側の福島県から四国・九州にかけての山地に自生する、日本の野生のあじさいです。半日陰の、湿り気のある林のなかや沢沿いに育つことから、サワアジサイ(沢紫陽花)という別名でも呼ばれます。

私たちがよく目にするガクアジサイと比べると、花も葉もひとまわり小ぶりで、葉に光沢がなく薄いのが特徴です。中心に小さな両性花が集まり、その周りを花びらのように見える装飾花(中性花)が取り囲む「ガク咲き」が基本の姿。華やかさよりも、楚々とした野の風情をたたえているのがヤマアジサイの魅力です。花色や花の形は地域によって変わりやすく、古くから愛好家の手で数多くの品種が選び出されてきました。同じヤマアジサイでも、これほど表情が違うのかと感じられるのは、そうした長い育成の歴史があるからなのですね。

まずは、雪のように白い花を咲かせる品種から。「白富士(シロフジ)」は、静岡県の愛鷹山で見つかったとされる純白の八重咲き品種です。細い剣のような花弁が幾重にも重なり、咲き進むにつれて澄んだ純白に近づいていきます。装飾花だけで構成される珍しいタイプともいわれ、富士の名にふさわしい清らかな白が印象に残りました。

「富士の滝(フジノタキ)」も、白い八重咲きの品種です。富士山の麓で見出されたと伝えられ、丸みのある花弁が半てまり状にこんもりと咲く姿は、その名の通り、流れ落ちる滝のしぶきを思わせます。枝がやわらかくしだれるように伸びる様子も、優美なものでした。

「舞華(マイカ)」

「花吹雪(ハナフブキ)」
「舞華(マイカ)」と「花吹雪(ハナフブキ)」も、白を基調とした華やかな品種です。舞華はその名のとおり、花が舞い踊るような軽やかさを感じさせ、花吹雪は、白い装飾花が風に散る花びらのように咲きこぼれる姿が美しい品種でした。どちらも土の性質などによって花色がほんのり変化することがあるとされ、同じ白でも、見るたびに少しずつ違った表情を見せてくれそうです。白い花が並ぶ一角は、梅雨の薄曇りの光のなかで、ほのかに発光するように涼やかでした。

「藍姫(アイヒメ)」
白の清らかさとは対照的に、深い藍や紫の色をたたえる品種も、あじさい展の見どころです。「藍姫(アイヒメ)」は、ヤマアジサイのなかでも人気の高い品種で、その名のとおり、吸い込まれるような藍色の一重のガク咲きが魅力です。若い茎や葉柄が赤紫を帯びるのも特徴で、梅雨の曇り空を明るく照らすような、澄んだ青が目を引きました。

「海峡(カイキョウ)」
「海峡(カイキョウ)」は、朝鮮半島の済州島で見つかったとされる品種です。深く澄んだ藍色の花が美しく、藍姫と並ぶと、海峡のほうがやや黒みを含んだ落ち着いた青に感じられます。ほかのヤマアジサイに比べてもコンパクトに育ちながら、花付きがよく、小さな鉢いっぱいに花を咲かせる様子は見事でした。

「深山八重紫(ミヤマヤエムラサキ)」
「深山八重紫(ミヤマヤエムラサキ)」は、京都生まれと伝えられるヤマアジサイで、濃い青紫色の八重咲きが特徴です。丈夫で育てやすい強健な品種とされ、咲き進むにつれて色が深まっていく変化も楽しめます。八重の花弁が幾重にも重なる紫の花は、藍姫や海峡の一重とはまた違う、奥行きのある豊かさを感じさせました。これらの青や紫は、土の性質によって発色が変わることがあるとされ、育てる場所によって少しずつ違う色合いを見せるのも、あじさいならではの奥深さです。
あじさいの楽しみのひとつに、花弁に入る「絞り」や「覆輪(ふくりん)」があります。覆輪とは、花弁の縁にぐるりと別の色が入ることをいいます。「肥後絞り(ヒゴシボリ)」は、その名のとおり、花弁に絞り模様が入る品種です。一枚いちまいの花弁に走る繊細な模様は、まるで筆で描いたかのようで、近づいてじっくり眺めたくなる味わいがありました。

「清澄沢アジサイ(キヨスミサワアジサイ)」
「清澄沢アジサイ(キヨスミサワアジサイ)」は、千葉県の清澄山で見出された、江戸時代から伝わる古い品種です。白い装飾花の縁に紅色の覆輪がふっと差すのが特徴で、白と紅のコントラストが上品な美しさを生んでいます。大型のヤマアジサイで、多くの園芸品種を生み出す母種としても知られる、いわば名門の一株です。

「紅額(ベニガク)」
紅額(ベニガク)」は、江戸時代から栽培されてきたほど古い品種で、咲き始めは白い装飾花が、初夏の日ざしを浴びるうちに次第に紅色へと染まっていきます。一株のなかに白から紅までの移ろいが同居する様子は、時間の流れそのものを花に写し取ったようで、何度足を運んでも見飽きることがありません。
あじさい展には、少し変わった顔ぶれも並んでいました。「アマチャ(甘茶)」の仲間です。アマチャはヤマアジサイの変種とされ、その葉を乾燥させ発酵させて煎じると、不思議なほど甘いお茶になります。お釈迦さまの誕生を祝う花まつりで、像にそそぐ甘茶として古くから親しまれてきた、あの植物です。一般的なあじさいの葉には毒があり口にできませんが、アマチャの仲間は例外的に利用されてきた、特別なあじさいなのです。

「小アマチャ(コアマチャ

「白アマチャ(シロアマチャ)」

「屋久島アマチャ(ヤクシマアマチャ)」
展示では「小アマチャ(コアマチャ)」「白アマチャ(シロアマチャ)」「屋久島アマチャ(ヤクシマアマチャ)」の三種が並んでいました。アマチャの花は、ヤマアジサイのように尖らず、丸みを帯びた装飾花が重なり合うのが特徴とされます。小アマチャは小ぶりで可憐な姿、白アマチャは清楚な白い花、屋久島アマチャは屋久島の名を冠する通り、南の島にゆかりを持つ一種です。花の見た目だけでアマチャかどうかを見分けるのは難しいとされますが、こうして名札とともに並べて展示されていると、その違いに目を凝らす楽しみが生まれます。花の美しさだけでなく、暮らしや信仰と結びついてきた歴史まで感じさせてくれる、味わい深い仲間でした。

「エゾアジサイ・雪手まり(ユキデマリ)」は、これまでの品種とは少し系統が異なります。エゾアジサイは、北海道南部から日本海側の山地に分布する、ヤマアジサイの亜種にあたるあじさいです。雪国に育つだけあって、大ぶりで瑠璃色の花を咲かせるものが多いのが特徴とされます。
そのエゾアジサイの「雪手まり」は、名前の通り、白い花が手まり状にこんもりと咲く品種です。雪を思わせる白さと、まるい花姿のやわらかさが重なって、見ているだけで涼やかな気持ちになりました。雪深い北の国に育つあじさいが、東京の梅雨の展示場で静かに花を開いている――そう思うと、一鉢の向こうに広がる風土の違いまで感じられて、しみじみと見入ってしまいました。
さて、前半でお話しした、頭に「アジサイ・」が付く三品種です。これらは、神代植物公園の表記ルールにおいて、ヤマアジサイとは系統が異なることを示す花たちでした。

「アジサイ・天竜千鳥(テンリュウチドリ)」
「アジサイ・天竜千鳥(テンリュウチドリ)」は、ガクアジサイの系統に入る品種です。天竜川の流域にゆかりを持つとされ、通常のガクアジサイよりも小ぶりで清楚な花序が特徴です。千鳥という名のとおり、小さな花が群れて咲く様子には、軽やかな愛らしさがありました。

「アジサイ・白斑入りガクアジサイ(シロフイリガクアジサイ)」
「アジサイ・白斑入りガクアジサイ(シロフイリガクアジサイ)」も、ガクアジサイの系統です。こちらの見どころは花だけではありません。葉に白い斑が入り、花のない季節でも葉そのものを観賞できるのが魅力です。緑の葉に白がまだらに入ることで、株全体が明るく軽やかな印象になり、花と葉の両方で長く楽しめる品種でした。

「アジサイ・四季咲ヒメアジサイ(シキザキヒメアジサイ)
そして「アジサイ・四季咲ヒメアジサイ(シキザキヒメアジサイ)」。ヒメアジサイという名前は、植物学上の正式な分類名ではなく、古くから親しまれてきた園芸品種の呼び名なのだと、園の方に教えていただきました。野生のヤマアジサイには分類されないため、頭が「アジサイ・」となっているわけです。四季咲きの名のとおり、花の時期が長く続くのも、この品種ならではの楽しみといえそうです。ラベルの数文字に込められた意味を知ってから眺めると、同じ花がぐっと奥行きを増して見えてきます。

今回の展示のなかで、ひときわ心に残ったのが「ヤエヤマアジサイ」です。鉢には八重咲きの白い花が涼やかに咲き、葉は深い緑をたたえて、つやつやと健康そうに茂っていました。ラベルに添えられた説明を読んで、この花の特別さを知りました。
園の説明によれば、ヤエヤマアジサイは都内の丘陵地で見出されたヤマアジサイの品種で、花のすべてが花弁状に変化しているために実を結びません。種ができないということは、種から殖やすことができないということ。そのため、増やすには挿し木によるしかなく、神代植物公園と関わりの深い植物多様性センターでは、その自生地の外で守り育てる「生息域外保全」という取り組みが行われているのだそうです。
八重に重なる花弁は、見た目には豪華で愛らしいのですが、その華やかさは、子孫を残す力と引きかえに得られたものでもあります。一輪の白い花の向こうに、絶やさぬよう人の手で受け継がれてきた歳月があるのだと思うと、目の前の花がいっそう貴いものに感じられました。なかなか出会えない貴重な品種に、こうして間近で会えるのも、植物園ならではのよろこびです。
展示された紫陽花は、どれも葉の色つやがよく、花も生き生きとしていました。あまりに状態がよいので、てっきり温室で大切に育てられたものだと思い、園の方にうかがってみたのです。すると、意外な答えが返ってきました。これらの鉢は温室ではなく、植物園のバックヤードで、露地――つまり屋外で育てられたものなのだそうです。

この答えに、思わず唸ってしまいました。というのも、ヤマアジサイは本来、山あいの、きれいな水が流れる沢沿いに自生する植物だからです。湿り気と木もれ日、涼やかな空気を好むその花を、鉢の中の限られた環境で、しかも屋外で、これほど健やかに咲かせるのは、決して簡単なことではありません。水やりの加減、置き場所の日当たりと風通し、季節ごとの手入れ――目に見えないところで重ねられた、職員の方々の細やかな手仕事があってこそ、この花たちは展示場で胸を張って咲いているのだと気づかされました。
一鉢いちはちの向こうに、沢の音や山の空気を思い浮かべながら、それを東京の街なかで再現しようと心を砕く人の姿が重なります。あじさい展は、花の美しさを見せる場であると同時に、それを支える人の手の温かさが静かににじむ場でもあるのだと感じました。
神代植物公園の紫陽花の見頃は、例年おおむね六月上旬から七月上旬とされています。屋外展示場のあじさい展で鉢植えの品種をじっくり見比べたあとは、園内のあじさい園に足を運んで、地に植えられたあじさいが木々のあいだで咲く様子も楽しめます。鉢の一輪と、庭に根を張った株とでは、また違った趣があります。
梅雨の時期は雨に降られることもありますが、紫陽花はむしろ雨にこそ映える花です。期間中は園の正門と深大寺門で透明のビニール傘を貸し出してくれるので、急な雨でも安心して散策を続けられます。雨粒をまとった花のみずみずしさは、晴れた日には味わえない、この季節だけの贈り物です。ただ足元が滑りやすくなることもあるので、歩きやすい靴で出かけたいところ。持ち物の準備については「神代植物公園の持ち物リスト|散策を快適にする7選」にまとめていますので、あわせてご覧ください。
ひとくちにあじさいといっても、その世界はおどろくほど豊かです。名前を知り、系統の違いに目を向け、ラベルの数文字の意味を知ると、いつもの花がまるで違って見えてきます。最新の開花状況は神代植物公園の公式お知らせで確認できますので、お出かけ前にのぞいてみてください。梅雨の晴れ間に、あるいは雨の日に傘を借りて、あじさいの小さな宇宙をゆっくりめぐってみてはいかがでしょうか。
あじさい展で出会った楚々としたヤマアジサイは、実はご家庭でも親しみやすい花です。西洋アジサイほど大きくならず、鉢植えでもコンパクトに育てやすいので、ベランダや小さな庭にも向いています。
育てるうえでの基本は、本来の自生地である沢沿いの環境を思い浮かべると分かりやすいかもしれません。半日陰の、風通しのよい場所を好み、強い直射日光と乾燥は苦手です。土が乾きすぎないよう水やりに気を配り、花が終わったら早めに軽く切り戻しておくと、翌年もまた花を咲かせてくれます。難しい手間はほとんどいらず、初めての方でも育てやすいのがヤマアジサイのうれしいところです。
今回ご紹介した品種のなかでは、純白の八重が美しい「白富士」、澄んだ藍色の「藍姫」、深く落ち着いた青の「海峡」、濃い青紫の八重が見事な「深山八重紫」などは、園芸店や通販でも苗が出回ることがあります。気に入った品種があれば、来年の梅雨は自分の手で咲かせてみるのも楽しいものです。なお、ヤエヤマアジサイのような結実しない貴重種は流通がごく限られますが、こうした育てやすい品種から始めれば、ヤマアジサイの魅力を気軽に味わえます。
あじさいのほかにも見どころは多く、園全体の回り方は【初めての神代植物公園|所要時間・回り方・季節別の楽しみ方】に、一年中楽しめる大温室は【神代植物公園の温室|熱帯植物と珍植物の見どころガイド】にまとめています。あじさいを眺めながらお弁当を広げたい方は【神代植物公園は飲食持ち込みOK|お弁当を広げたい絶景ベンチ5選】もどうぞ。